新型コロナパンデミックで全額奨学金モデルが試練に
キリロム工科大学のビジネスモデルはとても優秀なカンボジアの学生を全額無料の奨学金(スポンサーシップ)で受け入れて、在学中のインターンシップと卒業後に勤務する義務を課すものでした。最終的には優秀な学生は日本の企業で働き、高い給料を得ることができます。このモデルが新型コロナのパンデミックで難しくなりました。
困難になったのは下記の点です。
- キリロムへの視察ができなくなり、学生と直接対面で話ができにくくなった。
- 日本勤務の場合、日本でのビザが降りても入国が認められないケースが発生した。
- 日本での外国人エンジニアのニーズが大きく落ちた。
- キリロムでのインターンの仕事を出してもらうことが以前より難しくなった。
全額奨学金システムを発展させた、スタートアップスタジオ戦略
我々はキリロム工科大学の学生の就職先を確保する義務があり、学生にインターンシップでトレーニングをする機会を提供しなくてはなりません。キリロム工科大学の学生はカンボジアではトップのエンジニアの卵です。コロナ禍で大きく戦略を変更しましたが、「キリロムスタートアップスタジオ戦略」と我々は呼んでいます。
具体的には下記の方向転換しました。
- 優秀でスタートアップ思考の学生にカンボジア向けのスタートアップを作ることをインターンシップのミッションとした。
- 学生は自分で作ったスタートアップに奨学金を出してもらって就職することになる。
- バーチャルカンパニーをトレーニング目的のユニットから就職先に変更し、バーチャルカンパニーへのエンジェル投資家を募った。
並行してA2Aデジタルの強化
全ての学生がスタートアップを作りたいわけでも作れるわけでもないので、上記のスタートアップスタジオとは別にA2A デジタルというITサービスプロバイダーのラインナップを増やし、こちらに日本からの仕事を受託して学生がインターンしたり、卒業後働ける様にすることも同時に行いました。
シリコンバレーのストラクチャードスピンイン
シリコンバレーにはストラクチャードスピンインという投資戦略があると、ベンチャーキャピタリストの大澤弘治さんが言われています。我々のキリロム発スタートアップに対しても同様のデザインをすることが可能です。
シリコンバレーには、以前からStructured Spin-inモデル(SSIモデル)という投資戦略があります。Cisco Systemsや創薬メーカー等がベンチャー投資をする際に活用してきた手法であり、将来的なSpin-inの設計を投資時点に行うことで、競合他社による投資先ベンチャー買収リスクを回避する投資手法です。具体的には、「投資実行時に、将来達成すべきマイルストーンを設定し、マイルストーン達成時には、投資時に合意した買収金額をベースに買収の優先交渉する」という手法で、投資の際に買収優先交渉権をパッケージで入手するモデルです。
[ STE Relay Column 029] 大澤 弘治 「 アントレプレナー 募集!」
https://www.stentre.net/column/029/
キリロム型スピンイン
キリロム型スピンインはシリコンバレーモデルとは少し違います。キリロム事業の持ち株会社であるシンガポール法人に対して一定の金額を預託してもらい、最初に設定したルールに合わせてその預託を株式でご返済するか、現金でご返済するかを将来のある時点で選んでもらう方式です。下記はイメージを持っていただくためにその一例です。
- 30万ドルを融資する。(スタート時)
- 2年後に時価総額50万ドルのスタートアップの株式60%を融資の返済として取得。
- 買取オプションを行使して、同時に残りの40%の株式20万ドル相当分を当初契約に定めた60万ドルで買い取る
または
- 30万ドルを融資する。(スタート時)
- 4年後に本来の目的に沿わないスタートアップの株式を弊社が他社に売却。
- 5年後に当初融資額現金30万ドルの返済を受ける
この方式であれば、納得するベンチャー企業ができなければ預託金を戻してもらうことができます。預託金の戻り率を下げる代わりに、事業の戦略立案・運営に積極的に関与することもできます。繰り返しになりますが、本スキームの契約合意事項はフレキシブルに設計可能です。
全額奨学金モデルも併用します。
キリロム工科大学は全額奨学金(スポンサーシップ)モデルも並行して継続しています。奨学金2万ドルの対価として学生に4年間働いてもらう方式にご興味がある方は下記のサイトをご覧ください。