カンボジアを拠点とする社会起業系スタートアップ vKirirom が運営するキリロム工科大学(KIT)は8日、在学生らによるバーチャルカンパニーのオンラインイベントを開催しました。バーチャルカンパニーとは、会計や独立採算を保ちながら事業の実効性を検証し、エンジェル投資家を募るKIT独自の仕組みで、一定以上のエンジェル投資家が集まった時点で法人化されます。
この日のピッチイベントには、vKirirom への投資やコミュニティに関わる人々約50名が、日本やその他の国々から参加しました。ピッチ終了後には Google Meet で個別面談の機会が設定され、ピッチ登壇した半数以上のスタートアップにはエンジェル投資などの支援が提供される見込みです。
Fixh.me
Fixh.me は、カンボジアで家電、水道、電気設備などの修理をしたい人と、修理サービスを提供できるサービスプロバイダーを繋ぐプラットフォームを開発。2018年に100人以上のサービスプロバイダと共にスタートした。成約時にサービスプロバイダから料金の20%を紹介手数料として徴収する仕組みで、直近の4ヶ月では紹介手数料で2,330米ドルを売り上げた。
今後、この事業を B2C から B2B へも拡大することで、年内に残りの5ヶ月間で3.5万米ドルを売り上げる計画。資金調達額は6万米ドル。
JOBIFY
JOBIFY は、エンジニア求人に特化した企業と求職者とのマッチングサイト。カンボジアにはまだエンジニアに特化した求人サイトは存在しないが、JOBIFY は IT エンジニアが求職者に対して面接を行い、オンラインでの試験やオンラインでのトレニーングコースを無料で提供することで差別化を狙う。毎年5万人輩出されるカンボジアの大学卒業生のうち、IT を専攻する5%(2,500人)がターゲット。
マッチイング成約時には、企業から当人の初任給1ヶ月分に1割載せた金額を手数料としてもらう(10%の付加価値税は別途)。求職者が就職後3ヶ月以内に辞めた時には、企業には代わりとなる人材を無料で紹介するする。当面はカンボジア国内の市場に集中し、将来は ASEAN 圏への市場展開も視野に入れている。
Zeal
Zeal は、不動産テックとコンストラクションテックを提供するスタートアップ。カンボジアの不動産事業者向けには、オンラインでも見込顧客に不動産に興味を持ってもらえるよう、不動産データのデジタル生成代行や VR を使ったバーチャルツアーの作成などを行う。また、作成されたバーチャルツアーは Zeal の Web サイトで見られるほか、不動産事業者の Web サイトにも埋め込める。
一方、コンストラクションテックでは、ドローンやポイントデータを元にインタラクティブマップ、360度イメージ、ビデオを使ったウォークスルーなどのコンテンツをオフショア開発する。コストの安いカンボジアの労働力を活用した、海外の建設業界からの受託を想定しているようだ。競合には、AroundMe360(タイ)、Tubear.co(シンガポール)、VJ Virtual Tour(アメリカ)など。)
KGF Online
KGF Online は、オンラインでのセミナー事業を提供するスタートアップ。東京ベースの採用広報 web メディア「LISTEN」と共同で、「LISTEN × KGF Online」というブランドで、Zoom、Remo、Google Meet などを使い毎週オンラインセミナー+ネットワーキングイベントを企画・開催している。クロスボーダー及びクロスジェネレーションで知見を共有するのが一つのテーマで、これまでにイギリス、イスラエル、中国などから現地で活躍する日本人スピーカーをセミナーに招聘し、これまでにイベントを9回開催した。
ハイクオリティなスピーカーによるセミナーを提供するのが現在のコアバリューで、会員からは年間10万円の会費を徴収する。多忙でイベントに参加できなかった会員には、セミナーの録画コンテンツを販売するほか、KGF Online 上で生まれたメンバー間のビジネスマッチングや業務アウトソーシングなどでマネタイズする。現在は日本市場向けに特化しているが、将来は英語圏やカンボジア市場にも事業拡大したい考え。
Casstack
Casstack は、カンボジアの飲食業界に特化したチャットボットを開発。新型コロナウイルスの感染拡大によりオンライン対応が迫られる中、飲食業の多くは大掛かりな IT 投資ができず、またハイエンドサービスを提供するニーズが存在しない。Casstack はイニシャルコストを必要とせず、サブスクリプションモデルで導入できるチャットボットを提供することで、飲食業のオンライン注文受付を支援する。
カンボジアは人口が1,600万人に対し、Facebook ユーザが1,017万アカウント、スマートフォンユーザが1,460万人と、モバイルを使ったソーシャルメディアエンゲージメントが効率的に行える点でユニークな市場。Casstack ではこの点を最大限に生かし、オンライン注文を受けられる仕組みから販売促進ができるプラットフォームを目指す。月に80〜90件ペースで契約を増やし、初年度売上40万米ドルを目指す。
Len Of Reality
Len of Reality は、VR を使って語学学習、特に外国語の語彙を増やすためのサービスを開発している。新型コロナウイルスの影響もあり、子供や学生、社会人もが対面講義による語学学習の機会減少を余儀なくされる中、VR の導入により、多くの時間を使わず、より直感的でゲーミフィケーションを取り入れた語彙習得の機会を得られる。さらに、VR の効用により、ユーザは目・耳・口をフルに使って語彙を習得するため、体験と結びつきやすく記憶定着しやすいのも特徴だ。
現在は KIT 内にある200台ほどの VR を活用しテストを繰り返しながらサービス品質をブラッシュアップ。製品の入手のしやすさから現在は Oculus Go に最適化しているが、将来は Oculus Quest にシフトしていく予定。現在は、日本や中国といった英語学習に比較的費用を支払うポテンシャルの高い市場にフォーカスしているが、将来はカンボジアなどで英語に加え、日本語や中国語の語彙学習サービスにも拡大を図る。
Dexpertize
カンボジアでは2023年までに 産業の多くの分野で DX を進めることが期待されているが、企業の中で具体的に DX 戦略を持っているところは22%に過ぎない。その理由はツールが不足していること、データが不足していること、技術サポートが不足していることなどの理由による。Dxpertize では、DX 戦略が十分でない中小企業をターゲットに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するソリューションを提供する。
DX に必要な要素は、データ収集とデジタル化、データの見える化と監視、プロセス最適化、プロセス自動化に分解できるが、Dexpetise では現在、KPI ダッシュボード(データの監視とモニタリング)に注力し開発。市場特性をかんがみ、カンボジアには KPI ダッシュボードと RPA(プロセス自動化)、日本や世界にはプロセスマイニングツール(プロセス最適化)と RPA (プロセス自動化)で総合的な DX ソリューションを提供していきたい考え。プロセスマイニングツールは Celonis を活用する。
Keen
Keen は、ソフトウェアのコーディングテストに特化。日本のソフトウェアの品質保証およびテスト大手 SHIFT(東証:3697)にインスピレーションを得たカンボジア版と言える。カンボジア国内および世界中でコーディングテストの需要が高まるのを受け、カンボジアの社会特性を生かしたテスト専門会社を目指す考えだ。
国際ソフトウェアテスト資格認定委員会(ISTQB)の認証を受け、KIT や前出チームである JOBIFY のネットワークを活用し人的リソースを確保、また、オフショア企業で有名な隣国ベトナムに比べコストが半分で済むこともメリットの一つだという。チームメンバーの過去の経験を合計すると、これまでに8,000件以上のテストケース、2,000件以上のバグを報告した実績があるという。
vKirirom は、シリアルアントレプレナーの猪塚武氏が2014年2月に設立した社会起業系のスタートアップ。猪塚氏は、自身が創業したウェブアクセス解析プラットフォーム「Visionalist」の運営会社デジタルフォレストを2009年に NTT コミュニケーションズに売却後、4年間のシンガポール生活を経て、2014年1月に家族と共にカンボジアに移住。首都プノンペン郊外のキリロム国立公園の一部をカンボジア政府から借り受け、高原リゾートと全寮制大学の KIT を融合した街を開発している。
vKirirom は2016年7月、日本やシンガポールのエンジェル投資家15人から290万米ドルを調達した。同社はデロイト・トウシュ・トーマツが毎年発表する「Deloitte Technology Fast 500 Asia Pacific」に、2017年〜2019年にかけて3年連続で入賞している。